旅行に持って行くレンズは何ミリ?
旅行と写真を楽しむトラベルフォトグラファーの皆様におかれましては、普段はどのような機材で旅写真を撮っているでしょうか?

私の定番セットは、超広角単焦点の20mm F2 DG | Contemporary、標準ズームの28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary、望遠ズームのCanon EF70-200mm F4L IS USMの3本。
20mmから200mmというのが基本のシステム。
さらに望遠域が欲しい時は、100-400mm F5-6.3 DG DN OS | Contemporaryを持っていくこともあるが、普通に旅行するときにはかなり荷物を食ってしまうので本気の撮影旅でしか持ち運ぶことはない。
20mmで覗く世界
20mmの超広角というのは、お散歩や街歩きするのにかなり役に立ってくれるレンズで、先日ヨーロッパ旅行の際も街歩きしている時は基本的には20mm単をつけていた。
超広角の使い道は、風景をダイナミックに写したりだとか、建築物などの人工物を写したりだとか。人間の目で見えている以上に広い視野で映すことができる。

あとは望遠レンズの圧縮効果とは逆に、遠近感を効かせた写真を撮ることができる。

28-70mmで覗く世界
そして標準ズームは、とりあえず持っておけばなんでもできる蓋代わりの万能レンズとして、カメラを持っている時は常に一緒にいるレンズ。人間の目でみた風景はだいたい50mmと言われているので、見えてる世界を素直に映すことができるし、引きたい時、寄りたい時にも対応できる。

プラハトラムのタトラカーを写したこちらは48mm。

モルダウにつながる運河とプラハの街並みを写したこちらは51mm。
ちなみにSony純正レンズで、FE 20-70mm F4 Gという20mmスタートの標準ズームが出ており、望遠域を必要としないのであれば、こちらも選択肢になってくると思う。
200mmで覗く世界
望遠レンズは人によって、要不要が大きく分かれる気はする。
ただ、動物園で生き物を大きく写したいとか、ディズニーランドでパレードやショーを撮るなど、あると何かと便利なレンズでもある。
私の使い方の場合は、旅行の前後、空港で飛行機ウォッチングしたり、現地の野生生物などを写したいので、そうなると望遠レンズが必要になってくる。
現在のSIGMAのラインナップの望遠レンズはArtかSportsの本気レンズばかりで、旅行に気軽に持ち運ぶようなものは少なかった。なので、レフ機時代にCanonのボディを使っていた時から所有していたEF70-200mm F4L IS USMにマウントアダプターを噛ませて使用し、レンズ情勢を見極めていた。もちろん長いレンズがあれば有利な場面も多い分野なので、ライトバズーカこと100-400mm F5-6.3 DG DN OS | Contemporaryも所有しているが、ライトバズーカといえど旅行となるとやはりサイズと重量が嵩んでしまうので、撮影が目的では無い限り持ち出すことはあまりない。

中部国際空港の展望デッキで撮影したフィリピン航空のA320。200mmで撮影している。

野生生物となると200mmでも足りなくなるので、このエゾリスはさらにトリミングしている。
レンズ沼という言葉もあるわけだが、今までCanon機時代も含めて色々なレンズを触ってきた中で、旅行用セットとしてしばらく落ち着いていたのが、今紹介した20mm F2 DG | Contemporary、28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary、EF70-200mm F4L IS USMの3本だった。
そんな私の旅行用レンズシステムだが、それでもレンズ3本を持ち歩くとなるとそれなりに重量があるのは事実。重量は順に370g+470g+760g=1600gあり、カメラを含めると2kgを超えてくる。そこにiPadにMacbook、充電器類などなどが入ってくると結構な重さになる上に、飛行機での旅行の場合、航空会社によっては機内に持ち込めるのは7kgまでといった制限がかかってくるので、泣く泣く望遠を置いて行ったりもする。
やはりずっと高倍率ズーム、いわゆる便利ズームを旅行用に欲しいと思ってたのだが、Sony Eマウントで便利ズームは、Tamron28-200,28-300かSonyの24-240mmしか選択肢がなかった。シグマーとも呼ばれるシグマレンズ愛好家としては、SIGMAで統一したいと思っていたので様子をじっと伺っていた。
Sigma 20-200mm登場!
何年もずっと待ち続けてついに、そんな状況を一変させるゲームチェンジャーが現れた。それが20–200mm F3.5–6.3 DG | Contemporaryだった。価格はメーカー直販で143,000円。実勢価格は13万円ほど。
レンズの詳しいスペックは、SIGMAの公式サイトを見ていただくとして、ざっくりとこのレンズのすごいところを挙げると次の通り。
・20-200mm
まずこの焦点距離だけですごい。いくら変態(褒め言葉)と言われるSIGMAといえど、便利ズームで20mmスタートという痒いところに手が届きすぎちゃうスペックで出てくるとは思わなかった。
このスペックは世界初であり、超広角域の20mmに魅力を感じる方ならば、このレンズは唯一無二の存在となる。
逆に広角側より望遠側を求めるのであれば、Tamronの28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)をチョイスした方が幸せになれると思う。

例えば大阪関西万博の象徴とも言える大屋根リング。リングのスケール感がわかるよう引きで撮るとこんな感じ。

でそのままズームするとここまで寄れる。すごい。この2枚で20mmスタートの光学10倍ズームの威力がおわかりいただけるだろう。
今まで3本のレンズで賄っていた距離がこの一本で足りてしまうので、今後の旅行では基本的にレンズ交換という煩わしい作業から開放されるというこの上ないメリットがある。
レンズ交換というのは、時間がかかり被写体によっては交換しているうちに逃げられてしまったりする。それに交換中にセンサーにゴミがついたり、うっかりレンズを落としてしまうリスクもある。
私は今後リスクを一切合切考えることなく、旅行を心から楽しめるのだ。

付属するレンズフード、20mmの画角に対応するためかなり浅めとなっている。望遠域での効果は薄そうだ。
レンズ自体の話では無いのでレンズの欠点としてはあげないのだが、付属のレンズキャップのはまりが浅く、ちょっと力がかかっただけですぐ外れてしまう。個体差なのか仕様なのか。
・最大撮影倍率 1:2(ハーフマクロ)
難しい言葉のようだが、早い話が被写体に寄れるので、大きく写せるということ。焦点距離が28-85mmに限定されるのだが、旅行に行くと現地グルメ食べますよね?そういう写真撮る時に寄れるのがありがたかったりする。
あと私の使い方だと、現地の虫などの小さな生物を撮る時にも寄れるのはかなり便利。
・重量540g(Lマウント版は550g)
こんなに至れり尽くせりのスペックで、なんと破格の重量である。旅行に持って行くとなるとやはり重要になってくるポイントだろう。
「これは200mmまで使える10倍ズームレンズだ」と思ってレンズを開封して箱から取り出すと、想像以上の小ささ&軽さに衝撃を受けること間違いない。
今まではレンズ3本で1600gもあったのがいきなり3分の1になってしまった。革命である。
これからはLCCの貧乏旅行でも、泣く泣く望遠レンズはお留守番なんてことがないのだ。
また、基本はこのレンズを使い、状況によっては勝負レンズを1,2本なんてシステムにもできる。

数値で比べてもピンとこないと思うが、今まで使っていた標準レンズ28-70mmと持った感覚はほとんど同じというとより実感的なレビューだろうか。スペック上では28-70の470gに対しての70g増となる。サイズ感も並べて比べてみると28-70より若干太くて長いのがわかるのだが、ほとんど変わらない感覚で使うことができる。
20-200mmには20mm時にズームをロックするつまみがついている。

ズームを伸ばし切ると流石に20-200mmはかなり長い。
ズームリングの感触はけっこう固め。しかし使っているとすぐに慣れた。
Sigma 20-200mmの悪いところ
良いとこづくめかというと、もちろんこのスペックと重量感を実現するために妥協された部分もある。
そちらも隠さずにレビューしたい。
・手ぶれ補正非搭載&暗い
形式名にOSがついていない通り、手ぶれ補正は搭載されていない。といっても、私はSonyα7iiとα7cを使っていて、カメラ側に手ぶれ補正がついているので許容範囲ではある。
そして絞り開放値がF3.5–6.3になるので、単純に暗い。
暗くて手ぶれ補正が無いとどういう状況に不利かというと、夜や室内など暗い環境は不得意ということになる。わかりやすくいうと夜景を撮ったり水族館で使ったりという使い方をしたい方には不向きかなと思われる。
実際に使用していると、夕方暗くなってきた時の望遠域がなかなかにキツく、ISO感度を上げるタイミングが今までよりだいぶ早くなったのが自分でもわかる。
明るさを気にされるのであれば、TAMRONの28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD(Model A071)や、その後継機種でSIGMA20-200mmに発表日をぶつけてきたバリバリのライバル機種25-200mm F2.8-5.6 G2 (Model A075)の方が、手ぶれ補正こそついていないもののSIGMAより一段明るいのでベストバイかもしれない。
また暗くても手ぶれ補正がついているレンズを求めるならば、Tamron 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)は、 SIGMA20-200より一段暗いが、レンズ側に手ぶれ補正が搭載されている。
F値について補足説明
F値が大きいということは、あまりボケないレンズだと思われる方もいると思うのでここで補足説明。
写真のボケ量を左右するのは被写界深度の浅さであり、F値の大きさは要素の一つに過ぎない。
被写界深度とは、わかりやすくいうとピントが合ってる距離の範囲のこと。
写真をボカすには、F値を小さくする・焦点距離の長いレンズ、つまり望遠レンズを使う・被写体に近づく・被写体から背景の距離を離す、というのが要素として挙げられる。

このレンズは、200mmまでと焦点距離も十分に長く、28-85mmではハーフマクロ、つまり被写体に近づける。
被写体に近づけばその分被写体から背景の距離は遠くなり被写界深度は浅くなるので、F値が大きいからといってこのレンズはボケないというわけではないことを注記しておく。
この奄美大島のリュウキュウアブラゼミの写真も、ボケを意識して撮った写真では無いのだが、それなりにボケているのはおわかりいただけるだろう。
・周辺減光と歪みが激しい
このスペックを実現する上での妥協でもあり、SIGMAの設計思想的なものでもあるところではある。
というのも最近のSIGMAの設計はデジタルでの補正が難しい部分は光学設計で徹底的に対処し、デジタル補正で対応できる部分はデジタルに頼ることで、軽量化を実現するという思想になっている。

手すり部分を見るとどれだけ歪んでいるかがわかる。
Lightroomがアップデートされ、レンズプロファイルが対応すれば気にならなくなる。
ちなみにLightroomClassicとCameraRAW向けのプロファイルはすでにSIGMAから公開されている。
実際に撮ってみた

奄美大島のヘゴシダのジャングル、太陽を画角内にいれた少々意地悪な構図だが綺麗に写っている。

奄美の亜熱帯雨林を歩いていたら出現したオキナワキノボリトカゲ。逃げ出したペットのエリマキトカゲではなく歴とした南西諸島に生息している野生種である。
突然のエンカウントでも、そのままレンズをひねればクローズアップして撮影できる。今までは広角や標準レンズから望遠レンズに急いで交換している間に、もうどこかへ逃げられてしまうなんてことも多々あった。

万博の大屋根リングの中を走る自動運転バス。自暴運転時代の幕開けともいって良いこの時代に開催された万博を象徴しているが。

レンズをひねれば引きから、寄りまで様々な画角で写すことができる。

思いっきり寄ることもできる。
まとめ
妥協点があることも否めないが、”旅行で写真を撮る”というのに欲しい要件を見事に搭載してくれたレンズであり、写真史にその名を刻む革命的レンズであることは間違いない。
私は普段は発売から時間が経って価格が落ち着いてきてから買うタイプの人間なのだが、流石に長年待ち侘びたSIGMAの便利ズームなので即予約し、発売日には手元に届いていた。
レンズ交換の煩わしさとリスクから開放され、旅行を心から楽しめるこのレンズは、私にとってそれくらい心からおすすめできる1本である。
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